ええ、ようこそのお運びで、厚く御礼申し上げます。世の中には「お金はあるのに置き場所がない」という、まことに結構なお悩みもございます。今日はTRONと、米国の銀行の金庫のお噺を一席。
「甚兵衛はん、居てはりまっか。TRONに銀行の金庫が開いたて、町内えらい騒ぎだっせ」
「おお、喜ぃさんかいな。それはAnchorage Digitalの話や。2026年3月26日にTRONへの対応を発表して、TRXのカストディ、つまり保管を始めはった。規制下のプラットフォームと、セルフカストディ型ウォレットのPortoの両方でな。7月14日にはTRXのネイティブステーキングと、TRC-20資産のカストディにも広げた。保管、トークン、運用と三段構えで扉を開ける。銀行らしい慎重さや」
「そのAnchorage Digitalはん、えらいとこだすか」
「えらいどころやない。中核のAnchorage Digital Bankは2021年1月、OCCから国法銀行の認可を受けた、米国初の連邦認可暗号資産銀行や。出資者はAndreessen Horowitz、GIC、Goldman Sachs、KKR、Visaで、企業価値は42億ドル。ウォール街の金庫番が、TRONを預かり物の帳面に載せたんや」
「けど、買う人がおらな金庫だけあってもしゃあおまへんやろ」
「そこや。機関投資家の壁は買いたいかやのうて、どこに置けるかや。人様の金を預かる受託者責任があるさかい、規制の外の置き場は端から選ばれへん。TRONに足らんかったんは需要やのうて、置き場所やったんや。TRON DAOのレポートやと、2026年第3四半期のステーブルコイン決済額は2兆2,126億ドルで前期比5.1%増、1日平均でも240億ドル超。USDTとUSDDの供給量は合わせて938億8,000万ドル。9月23日には累計取引額が30兆ドルを突破した。9月9日にはステーキング型TRX ETFのTRXSがCboeに上場や。報酬は条件で変わるけど、置いて持つ、働かせて増やす、証券口座で買う、の三つの道が一年で揃うたんや」
さて、このお噺、実は四百年前にも一ぺんあったんでございます。
「17世紀初めのアムステルダムは世界の商いの十字路や。けど市中には何百種類もの硬貨が出回って、端を削って品位を落とす輩もおる。お金はぎょうさんあるのに、誰も信用しきれへん」
「今のステーブルコインとおんなじ形でんな」
「そうや。そこで1609年1月31日、アムステルダム振替銀行、ウィッセルバンクが店を開いた。硬貨を確認して、造幣基準どおりの銀行貨幣として帳簿に載せる。600ギルダー以上の為替手形は、ここで決済せえと決めた。大口の商人はみな口座を開いて、アムステルダムは欧州金融の心の臓になった。今の経済学者が『硬直的なステーブルコイン』と呼ぶのも無理ないわな。18世紀前半には、銀行貨幣が市中の硬貨より4〜5%高う取引された。中身の銀はおんなじでも、帳簿に載るだけで値が上がる。信用には値段が付くんや」
「ほな、ええことずくめだんな」
「ところが第四次英蘭戦争のさなか、東インド会社への貸しを膨らませて信用を落とし、1795年に事実上つぶれてしもた。信用は一ぺんもろたら終わりの勲章やない、毎日磨かなあかん。OCCの目の下で段々に扉を開けるAnchorageの慎重さは、その裏返しや。お金の歴史では、いつも量の後に格が来る。2026年は、TRONがその両方を手にした年として語り継がれるやろ」
「なるほど。ほな甚兵衛はん、わいもその銀行で預かってもろたら、4〜5%は値打ち上がりますやろか」
「あかんあかん。お前は町内あっちゃこっちゃのツケで、端からとうに削られとる」
信用は削られる前に磨いとくもんでございます。お後がよろしいようで。