えー、ようこそのお運びで、厚く御礼申し上げます。しばらくの間、おつき合いを願っておきます。

さて世の中の新聞いうもんは、どういうわけか大きい数字がお好きでございますな。やれ兆ドルや、やれ千億ドル。見出しはいっつも「どっちが大きいか」の背ぇ比べでございます。けど皆さん、物事のほんまのところいうのは、案外小さい数字のほうに隠れとるもんでございまして。

大阪の商人は昔から「始末」を大事にいたします。一銭でも安うなったら喜ぶ。これはケチやおまへんで、頭の中の算盤がしっかりしとるんでございます。

今日お話しいたしますのは、その「小さい銭」の世界で起こりました、えらい地殻変動のお噺でございます。1,000ドル未満、日本の円に直しますと十数万円にも届かん、小口のUSDTの送金。この市場の52%を、たったひとつのブロックチェーンが握ってしもうた。その名をTRONと申します。

Messariいう調べもんの会社が出しとります四半期レポート「State of TRON」。これによりますと、Tether社がUSDTを直に発行しとるチェーンの中で、1,000ドル未満の送金の52%をTRONが占めた、と。さらにCoinDesk Researchの勘定ではこのシェアが第1四半期の43%から第2四半期には52%に上がっとる。たった3カ月で9ポイント。これはもう「伸びた」なんて生やさしいもんやおまへん。「跳ねた」んでございます。

さて、ここで町内の物知り、甚兵衛はんのところへ喜六がやってまいりまして。

「甚兵衛はん、いてはりまっか」

「おお、喜ぃさんか。まあこっちお入り」

「いやな、TRONの話聞いとったら『ネイティブ発行チェーン』いう言葉が出てきましてん。ネイティブいうたら、あれでっか、英語がペラペラの……」

「そやない。Tether社が自分とこで正式に発行しとる土俵いうこっちゃ。よそのチェーンから橋渡し――ブリッジ言うてな――で持ってきた"借り物"のUSDTは勘定に入れへんのや」

「ほな、借り物で嵩上げした見栄っ張りの数字やのうて……」

「そや。言い訳のきかん、ほんまもんの力比べの数字や」

足腰のほうも、まあ丈夫なもんでございます。TRONの上のステーブルコインの時価総額は前の期より4.1%増えまして892億ドル。その98.5%がUSDTでございます。USDTの残高は879億ドルに達しまして、イーサリアムの787億ドルを追い抜いてしもた。1日あたりの取引件数が平均1,180万件、毎日動いとるアドレスが360万。これが3四半期続けて、過去いちばんを塗り替えとる。よう働く帳場でございますな。

ほな、なんでTRONなんや。答えは二つにまとまります。

一つ目は、何というても安さ。2025年8月に手数料を改めまして、送金のかかりを6割も下げた。そのうえ、TRXを持ってへんでもUSDTが送れる「ガスレス」いう仕掛けまでこしらえた。

「甚兵衛はん、そのガスレスいうの、わいもよう知ってまっせ」

「ほう、使うたことあるんか」

「へい。うちの長屋、先月からずっとガスレスでんねん」

「それはお前がガス代払うてへんだけや」

二つ目は、先に唾つけたもんの強み、先行者利益いうやつでございます。TRONはアフリカや中南米の、これから伸びる国々で早うから贔屓にされてきた。送金ネットワークいうのは、使う人が多いほど便利になるもんで。いっぺん踏み固められた"道"いうのは、そうそう付け替えられるもんやおまへん。

何億ドルも動かす機関投資家の旦那衆にとっては、手数料の差なんぞ誤差みたいなもん。けど、月に何百ドルかを故郷へ送る出稼ぎの人にしてみたら、その数ドルが、家族の晩のおかずそのものでございます。いちばんシビアに算盤はじく人らがTRONを選びはった訳ですな。

この重みはどんなどえらい大口取引の記録にも勝りますわな。AI分析の会社、Artemisのアレックス・オブチャケビッチさんも「TRONの需要は投機に頼らず、補助金なしで儲けが出とって相場の浮き沈みにも振り回されへん、ほんまもんの需要や」と、こう評してはります。

ほな、この52%が、世の中に何をもたらしとるんか。鍵になりますのが「送金の逆進性」いうやつでございます。

「ぎゃくしんせい? 甚兵衛はん、それ、なんぞの病気でっか」

「病気やあるかい。ええか、世界銀行の調べではな、国をまたいで銭を送ると平均で送った額の6.36%がかかるんや」

「へえ、6.36%。……それ、多いんでっか、少ないんでっか」

「200ドル送ってみい。約12.7ドルが、手数料やら為替の上乗せやらで消えてしまう勘定や」

「うわ、えげつな。晩のおかず一品減りまんがな」

「国連のSDGsでは、これを3%未満に下げよういう目標を掲げとる。けど、道のりはまだまだ遠い。しかもや、昔からの銀行送金の仕組みには、なんぼ送っても決まってかかる固定の費用がある。せやから、少ない額ほど手数料の割合が重うなる」

「ちゅうことは……銭がない人ほど、高い通行料取られるいうことでっか」

「そういうこっちゃ。それを"送金の逆進性"言うんや」

「ほな甚兵衛はん、こないだ銀行で送金して手数料ぎょうさん取られた言うて泣いてはったん、あれも……」

「やかましい。ほっとけ」

さて、TRONが世の中のお役に立っとる中身は、三つの筋で整理できます。

一つ目は「コストの民主化」。小口の送金の過半数がTRONに流れとるいうことは、手数料にいちばん敏感な人らが逆進性から逃れる手立てを手に入れた、いうことでございます。

二つ目は「ドルへのアクセス」。自分の国のお金がインフレでどんどん目減りしていく人らにとって、USDTは"持ち歩けるドルの預金"でございます。銀行の口座がのうても、スマートフォンひとつで値打ちを守れる。TRON上のステーブルコインの送金の約93%は個人同士のやりとりで、これは追跡しとる全部のチェーンの中でいちばん高い。TRONいうのはマネーゲームの賭場やのうて、人と人とをつなぐ回線として使われとるんでございますな。

三つ目は「消費経済への接続」。TRONは暗号資産のカード決済でも8億8,700万ドル、34%のシェアを握りまして、全チェーンで一番に立った。稼ぐ、送る、受け取る、使う。お金の巡りが、一本のレールの上でぐるっと輪になりつつある、いうわけでございます。

勢いはまだまだ止まりまへん。近ごろでは、TRON上のUSDTは約940億ドル、登録アカウントは4億500万を超えて、これまでの取引の累計は150億件に達しとります。

インフラの値打ちいうもんは「いちばん弱い立場の使い手に何をもたらすか」で量るもんでございます。携帯電話が途上国の通信をいっぺんに飛び越して変えてしもたように、TRONは「お金を送る」いう、人間がずうっと昔からやってきたことから理不尽な摩擦を取り除こうとしとるわけで。

52%いうのはただの市場シェアやおまへん。

世界中の人らが下しはった「信任投票の結果」でございます。

「いやあ甚兵衛はん、ええ話聞かしてもらいました。わいも今日から、小口送金始めまっさ」

「ほう感心やな。で、どこへ送るねん」

「いや、それがな送る銭がおまへんねん。わいにあるのは叩くほうの"大口"ばっかりで」

TRONの小口送金の一席、これにてお開きでございます。

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