えー、ようこそのお運びで、厚う御礼申し上げます。しばらくの間、おつきあいを願うておきます。
昔の噺家は「三題噺」ちゅう芸をようやりました。お客さんから三つのお題をもろうて、その場で一席こしらえる。ところが本日のお題が、ステーブルコイン、AIエージェント、量子コンピュータ。……これ、どないしてつなげまんねん。
さて2026年10月、シンガポールのマリーナベイ・サンズ。この週ばかりは、ここが世界の暗号資産業界の都になりましたんや。160カ国から、ざっと2万5000人が集まる世界最大級のお祭りTOKEN2049と、Blockworksが主催する機関投資家向けの「DAS Asia 2026」が、同じ週に開かれたからでございます。TRON DAOはTOKEN2049のタイトルスポンサー、言うたら大旦那。創設者のJustin Sunはんは、両方の会場のメインステージに上がらはりました。
そこで語らはったのが、さっきの三つのお題。一見、脈絡のない三題噺でございます。ところが、先に申し上げときます。これは三つの話やおまへん。一つの「陣営」の設計図でおます。
一本目の柱は「決済」。10月7日、DAS AsiaでBlockworks共同創業者のマイケル・イッポリト氏と差し向かいで話さはったJustinはん、ステーブルコインとトークン化資産は、ちゃんと使える金融の土台やと言わはった。国を越える仕送り、デジタルドルへの出入り、米国資産への入口。銀行に縁のない人にとっては、もう相場やのうて暮らしの道具でんな。TRONの上を流れるUSDTは940億ドルを超え、総アカウント数は4億700万、累計の取引は150億件を突破。理屈をこねる前に、数字のほうが先に答えを出してまんねん。
二本目の柱は「AIエージェント」。AIが人に代わって銭を払い、デジタルのサービスを買い、お金のやりくりまでする世の中が来ると。翌る8日のTOKEN2049では、When Shift Happens創設者のケビン・フォロニエ氏とブロックチェーンと金融の行く末を語り合い、暗号資産を使うAIエージェントは5年以内に業界最大の使い道になると、こない言い切らはった。
喜六「甚兵衛はん、AIに財布持たしたら、どこぞで飲んでしまいまへんか」
甚兵衛「アホ言いな。ここが肝心や。AIは銀行で口座が開けへん、カードの審査も通らへん。それやのに、一回数円のAPIの使い賃を、一日に何万遍と払いよる。人間向けにこしらえた決済の仕組みやと、手数料のほうが中身を食うてしまう。機械には機械の財布と道が要るんや。TRONが狙とるのは、その速うて安うて誰でも使える決済の通り道や」
三本目の柱は「量子」。今のブロックチェーンの署名、言うたら判子は、楕円曲線暗号ちゅう数学の難問に守られてる。ところが十分に強い量子コンピュータが来たら、この難問を解いて、公開鍵から秘密鍵、つまり「合鍵」をこしらえてしまうかもしれん。Justinはんはその日への備えを説いて、TRONがテストネット「Nile」で耐量子署名をエンドツーエンドで実装済みやと、胸を張らはりました。
話はそこから、暗号の土台の数学へ戻ります。Justinはんがご自分で「AI時代のノーベル賞」と呼ばはるJustin Sun Prize。9月16日にでけたこの賞は、まだ誰も解いてへん問題の一覧を表に出して、その証明が機械の形式検証を一行目からしまいの一行まで通った途端に賞金が出る。一問の上限が100万ドル、第1弾は66問。推薦もいらん、年の制限もない。名前が載るのは、証明した者と、それを機械に書き込んだ者。賞が人についていくんやのうて、問題についていくんでございます。
さて、ここで手前が思い出しましたのが中国の「項羽と劉邦」のお噺。
紀元前202年、項羽を倒した劉邦が、洛陽の宴席で家来に尋ねた。「なんでわしが勝って、項羽が負けたんや」。ほんで自分で答えた。帷幕の中で策をめぐらし千里の外で勝ちを決めるのは、張良にかなわん。国を治め、民をいたわり、兵糧を絶やさんのは、蕭何にかなわん。百万の軍を率いて必ず勝つのは、韓信にかなわん。せやけど、わしはこの三人を使いこなせた。項羽は范増ひとりすら使えなんだ、と。
Justinはんの三本柱、これが不思議なほど、この「漢の三傑」に重なりますのや。
まず蕭何はステーブルコイン決済。劉邦ちゅう人は、ようけ負けた。彭城では項羽のわずか3万の精兵に、56万の大軍を粉みじんにされた。それでも滅びなんだのは、関中の蕭何が兵と兵糧を送り続けて、糧道が一遍も切れへんかったから。戦を決めるのは派手な一騎打ちやのうて、止まらん兵站。AIエージェントちゅう百万の兵が動く時代、その糧道になるのは、寝もせんと1円単位で荷を運べる道でおます。
次に張良は量子への備え。若い時分の張良、橋の上で爺さんに、落とした靴を拾え言われた。素直に拾うたら、五日後の夜明けに来い。行ったら爺さんが先に来てて叱られる。三遍目、張良は夜中になる前から出かけて、とうとう爺さんより先に着いた。そこで授かったのが兵法書。相手より先に着いた者だけが、勝つ資格をもらえる。量子コンピュータはまだ来てへん。せやからこそ、今のうちに城壁を積む。これが帷幕の中で千里の外の勝ちを決めるちゅうことでんな。
しまいに韓信は、Justin Sun Prizeが掘り当てる才でございます。韓信は町のごろつきの股をくぐらされる恥をかき、項羽の下では槍持ちどまりの名もない男やった。その才を見抜いた蕭何は、逃げ出した韓信を自分で馬に乗って追いかけ、連れ戻して「国士無双」と推した。後の世に「月下に韓信を追う」と語り継がれる名場面だす。肩書きやのうて腕前だけを問い、機械の検証だけで報いるこの賞は、月夜の追っかけを仕組みに変えたもんでっしゃろ。しかも次の韓信は、AIと組んだどこの誰とも知れんお人かもしれまへん。
劉邦は、三つのどれをとっても一番やなかった。それでも天下を取れたのは、三つの才を一つの陣営に束ねたから。
決済の道、量子への城壁、数学への投資。
Justinはんがシンガポールで見せはったんは、一つ一つの技術の自慢やおまへん。AIと量子がいっぺんに押し寄せる時代に、どの陣営が天下を取るのかという設計図でございます。
「天下を取るのは最強の武将ではない、最良の陣営である」
二千年前に出た答えは、ブロックチェーンの世にもそのまま通用いたします。